詩音が頬を膨らませると、阿部が「はははっ!」と豪快に笑った。
「詩音ちゃん。それはとんだ勘違いだぜ。あいつ、口ではそう言ってるかもだけど、心の中ではきっと詩音ちゃんの役に立ちたいって思ってる」
「あの人が?」
信じられない。
だが、阿部の顔は真剣そのものだ。
「……あいつは人の負の感情ばっかり感じ取ってきた。だから、人から与えられた喜びも優しさも全てを信じられなくて、何か裏があるんじゃないかっていつも探ってたんだ」
まっすぐに受け止められなかった。
人の温かい感情を。
「ああいう性格になったのは、仕方ないことなんだ。……でも俺には分かる。あいつがどれだけ優しいかってことも、どれだけ大切な人を守りたいって思ってるってこともな」
それは詩音にも薄々感じていた。
前回の事件で、詩音に愛の形を教えてくれたのは叶亜だ。
感謝してもしきれない。
恩人なのかもしれない。

