どうやら私達は同じクラスらしい。自然な流れで同じ教室に向かって歩く。彼は時折手を振ってくる女生徒に笑顔で手を振り返していた。一人一人の名前やいつ頃会ったかも把握しているようで、声をかけてくる人と親しげに話している。
みんな口々に姫、姫、と呼んでいる。その様子を私は黙って見ながら、行き慣れていない教室に向かった。姫…どこかで聞いたことある。まだ、彼の名前を聞いてなかった私はどうにか自分の力で思い出せないか、いつもの10倍脳を回転させた。彼は私の名前を知ってるのに、私が彼の名前を知らないのは失礼過ぎる。
「なんか、ごめんね。一緒に教室に行ってるのに」
まったく話せなくってと、少し眉を下げて微笑みながら彼は言った。急に話しかけられて少し心臓が跳ね上がったせいで思い出せそうだった彼の名前がどこかに飛んで行った。
