持っていたカバンを木の根っこに置いて子猫に向かって大きく手をひろげた。
「さぁ、来い!!」
私の間抜けな力強い声だけ響いた。子猫には人間の言葉がわかるわけないのに何をしているんだろうと、恥ずかしくなった。次の作戦だ。早くしないと遅刻する。ブレザーのジャケットを脱いでシャツの裾を捲った。スカートの下にはきちんとジャージを履いていたので問題ない。桜の木に手をかけ登っていく。思ったよりも早く子猫のもとに辿り着けて、少しばかり自分を誇らしく思った。
子猫に手を伸ばし、狐ではないがとりあえずルールー言いながら、自分なりの優しい笑顔で呼び寄せた。子猫がやっと手元にきてくれたので降りよう、そう思った時。
すっかり忘れていた。そうだ。私は高所恐怖症。