「酒井さん、昨日のお客様どう?」
朝のミーティングが終わると、柴崎課長が席に近づいてきた。ミーティングの前に必ず一服してくる課長のスーツからは、いつも決まってタバコとコーヒーの香りがする。

「設計は概ね気に入っていただけました。奥様が他メーカーと迷っているようなので、次回はご夫婦で来場をお願いしています。」

住宅メーカーに勤めて3年。これまで数えきれないほどの夫婦と夢のマイホームの相談をしてきた。大抵の場合決定権は妻にあり、女心を掴むべく女性の私が営業の一員として商談に参加している。

「頼んだよ!酒井さんはお客様受けいいから大丈夫!」

褒められているのか、きっとそうなんだろう。
最近素直に喜べないのは自分に自信がないから。余裕がないから。