きちんとスーツ着てるお母さんの所へ、坂本さんが駆け出した。
いきなり対面することになった私もかなりの緊張感だけど、何より彼の狼狽えぶりが半端なくて…。


「どうしたんだよ!来るなら来るって、連絡してこいよ!」

子供みたいなこと言って怒ってる。

「だって、電話しても午前中は出ないじゃない!寝起き悪いから出ても不機嫌だし…」

言い返してるその視線が、彼のことを見つめる。坂本さんのお母さんって若い。一体いくつなんだろう…。

「…あら、そちらの方は?」

後方にいる私に気づいた。ドキッ。ヤバい…今日、普段着だ…。

「…彼女だよ…」

照れた顔して言う。もしかして、彼女紹介するの初めて……?

「理ちゃんの彼女⁉︎ まあっ!」

驚いたけど嬉しそう。これって、どういう反応なの⁉︎

「紹介して!」

お母さん浮き足立ってる。坂本さんは弱り顏。何か困ることがあるみたい。
迷った挙句、向きを変えて戻って来る。真面目くさった顔で側に来て、ぎゅっと私の手を掴んだ。
そのままお母さんの所へ連れて行かれる。そして、目の前で立ち止まった。

「同じ楽団でフルートを吹いてる小沢真由子さん…です…」

硬い言い方。もっと他に紹介の仕方があると思うのに。

「母親の成美(なるみ)です。よろしくね。真由子さん」

自己紹介されてハッとする。そうだ、挨拶しなきゃ…!

「は…初めまして…!小沢真由子です…!」

先に名前を紹介されてるのに、また言っちゃった。恥ずかしくて顔が赤くなる。
カレシのお母さんに紹介されるのなんて高校生以来だ。

「可愛い方ね…理ちゃんって、こういう人が好みなの…」

ニコニコしながらも観察してる。こんな時、どんな顔してればいいの⁉︎

「そんなのどうでもいいだろ⁉︎ …それより今日は何しに来たんだよ」

仏頂面。いきなりの奇襲攻撃を不満に思ってるみたい。

「そんな冷たい言い方しなくてもいいじゃない。折角会いに来たのに…」

鍵を開ける彼に甘える様な言い方。これって、俗に言う『来ちゃった作戦』みたいな感じ⁉︎
彼がイラついてるのが分かる。さっきとはまるで、顔つき違うもん。

「…母さん…まさかとは思うけど、先生ん家に顔出してないよな?」
「あら、勿論出したわよ!理ちゃんがお世話になってるから!」

当然でしょ‼︎…と胸を張る。お母さんの返事に坂本さんが焦る。一体なぜ?

「とにかく入れよ!話はそれから!」

先にお母さん押し込む。そしてこっちを振り向いた。