続 音の生まれる場所(下)

『劇場からの帰り、SAMはいつも同じ曲を口ずさんでた…』

ユリアさんがメロディをハミングする。それを聞いて、涙が溢れた…。

「MAYUKO…?」

理由が分からなくて、ユリアさんが首を傾げる。

「ごめんなさい…胸がいっぱいになって…」

彼の言葉が思い出される。

『君の吹いてくれたあの曲が、一番僕を支えてくれた。嫌なことがあった時や星空を見る度に、いつも思い出した…』

帰国して直ぐに聞いたあの言葉はホントだった…。
三年間想ってたのは、自分だけじゃなかった…。


「……その曲…二人の思い出の曲なんだよ…」
「春の定演で二重奏したやつ」
「しかも、もっさんのたっての願いで!」
「そうそう!」

ハルシンが面白がって話す。

「ワタシ…」

ユリアさんの声がまたしても震えてる。涙を拭きながら、彼女のことを見た…。

「ワタシ…MAYUKO…ウラシマヤ…SAM…ヒトリシネ…ダレモ…デキナイ……」

ギュッと握りしめる手。言ってる意味が分からず、彼女の顔を見た。


『…SAMと出会った頃、周りにはいつも必ず女の子がいた…』

ハルシンが言葉を解読していく。それを聞きながら彼女のことを見つめた。

『彼は誰にでも優しくしてくれるから…皆、SAMのことが大好きだった…』

過ぎてしまった事だと思いながら聞く話。でもやっぱり胸が痛い…。

『皆…SAMのこと独り占めしたいと思ってた。…でも、SAMは絶対誰か一人には決めなかった…。そして、その理由は日本に来て初めて分かった……』

あの三重ガードの怪しい格好で会いに行った日、ユリアさんはガードを外した私を見て、声を上げた。

『可愛い!』

お世辞だと思って本気にしなかった。でも、どうやらホントにそう思ったらしい。

『SAMが付き合ってたどの子よりもMAYUKOは可愛いらしかった…彼も…誰よりも優しくしてた…』

「そう…?」

私にはユリアさんの方が優しくされてる気がした。でもそれはワザとだったから…と笑われた。

「ワタシ…レオンノフィアンセ…タイセツニスル…アタリマエ…」

コンタクト無くしたなんてウソ。なかったら真由子の顔も見えてない…だって。

「とんだ悪女だな」

口の悪いハルが呟く。

「言い過ぎだって」

シンヤが宥める。