「ユリアの父親は工房でも若手の方で、経験の長い職人達に進言できるような強い力は持ってなかった…。日本の友人が弟子を預けたいという話を通してくれるのが精一杯で…『申し訳ない』と言われた…」
「そんな…じゃあどうやって修行したんですか⁉︎ 」
三年間の話を聞くのが怖くなる。自分のことのでもないのに、大きく不安が広がった…。
「…とにかく工房へは毎日行った…。どんな事をしてるのかは見せて貰えなくても、自分が本気で楽器作りをしたいんだという姿勢を見せればいいと思った。でも……」
持ち上げるグラスを揺らす。氷のカラカラ鳴る音を聞きながら、彼が悔しそうに呟いた…。
「『帰ればいいのに…』と陰で囁かれているのを聞いて…邪魔なんだな…って、しみじみ思った…」
グラスを持つ手に力が入る。何も言わないままじっと睨むようにしている彼の目が鋭くて背中が寒くなる。
「…何もかも投げ出して日本に帰りたいと思った…。楽器なんか作れなくてもいい、とにかく放り出してしまおうとさえ考えた。それくらい腹立たしくて、悔しくて……」
グラスの中を見つめながら言葉を吐く。その横顔が泣き出しそうで、胸が痛かった。
「憎らしい…って思うような気持ちさえ持った…」
日本では恵まれてたんだ…と坂本さんは話してた。その言葉の裏にこんな感情が隠れていたとは思いもしなかった…。
「…捻くれると人間ってロクな事しなくなるもんだよ…。その頃はとにかく楽器に触れる事も工房に行く事も苦痛で…女の子と…遊び暮らしてばかりいた…」
腹いせだったのかな…と小さな呟き。その声が悲しそうだった…。
「ドイツの女性には…いろんな意味で助けてもらった。金銭的にも肉体的にも…」
(若い男性なんだから仕方ない……)
そう思いながらも、頭の中で何か拒否したい気持ちが高まってく。ドイツでの生活を助けたのは、私じゃなくて他の女性達…。それがなんだかツラかった…。
「女性と一緒に行く劇場は、僕の唯一心の拠り所だった。音に触れてると日本にいるような気がして…気持ちが休まったから…」
少しだけ声の調子が落ち着く。その声を聞いて、ようやくカクテルを一口飲んだ。
「あてもなく工房へ通い始めて三ヶ月経った頃…声楽の専門学校からユリアが帰って来て。僕のことを見てこう言ったんだ…」
『あなたが日本から来たSAMURAI?』
「…そうじゃないと言ったら笑われた。ニコリともしないのにSAMURAIじゃないなんて変だ…って」
当時のユリアさんは日本で言ったら高校生。
遠慮も何もない年頃の彼女は、工房へ来ては年配の職人達の手伝いをしながら歌を届けていたそうだ。
「ユリアの歌声は優しくて…子守唄みたいだった…。日本や母のことを思い出して…思わず泣いた…」
恥ずかしそうにしてる目に涙が潤む。見ているこっちも、きゅう…と胸が切なくなった…。
「そんな…じゃあどうやって修行したんですか⁉︎ 」
三年間の話を聞くのが怖くなる。自分のことのでもないのに、大きく不安が広がった…。
「…とにかく工房へは毎日行った…。どんな事をしてるのかは見せて貰えなくても、自分が本気で楽器作りをしたいんだという姿勢を見せればいいと思った。でも……」
持ち上げるグラスを揺らす。氷のカラカラ鳴る音を聞きながら、彼が悔しそうに呟いた…。
「『帰ればいいのに…』と陰で囁かれているのを聞いて…邪魔なんだな…って、しみじみ思った…」
グラスを持つ手に力が入る。何も言わないままじっと睨むようにしている彼の目が鋭くて背中が寒くなる。
「…何もかも投げ出して日本に帰りたいと思った…。楽器なんか作れなくてもいい、とにかく放り出してしまおうとさえ考えた。それくらい腹立たしくて、悔しくて……」
グラスの中を見つめながら言葉を吐く。その横顔が泣き出しそうで、胸が痛かった。
「憎らしい…って思うような気持ちさえ持った…」
日本では恵まれてたんだ…と坂本さんは話してた。その言葉の裏にこんな感情が隠れていたとは思いもしなかった…。
「…捻くれると人間ってロクな事しなくなるもんだよ…。その頃はとにかく楽器に触れる事も工房に行く事も苦痛で…女の子と…遊び暮らしてばかりいた…」
腹いせだったのかな…と小さな呟き。その声が悲しそうだった…。
「ドイツの女性には…いろんな意味で助けてもらった。金銭的にも肉体的にも…」
(若い男性なんだから仕方ない……)
そう思いながらも、頭の中で何か拒否したい気持ちが高まってく。ドイツでの生活を助けたのは、私じゃなくて他の女性達…。それがなんだかツラかった…。
「女性と一緒に行く劇場は、僕の唯一心の拠り所だった。音に触れてると日本にいるような気がして…気持ちが休まったから…」
少しだけ声の調子が落ち着く。その声を聞いて、ようやくカクテルを一口飲んだ。
「あてもなく工房へ通い始めて三ヶ月経った頃…声楽の専門学校からユリアが帰って来て。僕のことを見てこう言ったんだ…」
『あなたが日本から来たSAMURAI?』
「…そうじゃないと言ったら笑われた。ニコリともしないのにSAMURAIじゃないなんて変だ…って」
当時のユリアさんは日本で言ったら高校生。
遠慮も何もない年頃の彼女は、工房へ来ては年配の職人達の手伝いをしながら歌を届けていたそうだ。
「ユリアの歌声は優しくて…子守唄みたいだった…。日本や母のことを思い出して…思わず泣いた…」
恥ずかしそうにしてる目に涙が潤む。見ているこっちも、きゅう…と胸が切なくなった…。

