「それはあんたの仕事に対する俺の評価だ。貰っとけ」

 煙の燻(くゆ)るパイプを示し去ってゆく。

 一人になったナシェリオは、男がささやくように発した言葉をいぶかしげに反芻した。

 運命とは誰が決めたものなのか。

 どうして運命などというものが存在するのか。

 そもそも、本当に運命というものはあるのだろうか。

 英雄譚(えいゆうたん)を見れば、描かれている人物の数奇な運命に心は逸(はや)り躍る。

 けれども、それはあくまでナシェリオにとっては書物のうえでの物語でしかない。

 それが真実の物語かなど、誰にも解りはしないのだ。