成長し言葉が解るようになってきたナシェリオに二人はこの世界の話をよく聞かせた。

 優しいだけではない世の中、生き抜く術、武器とはどういうものか──そんな物語や知識をナシェリオはいつも嬉しそうに聞き入っていた。

 そうしてナシェリオがまだ九つほどの頃、村の近くに獣が現れた。

 そいつは何かと闘ったのか、手負いで気が立っていた。

 本来は村などの集落は襲わないはずのその獣が次々と村人を襲い始めた。

 戦う術を持たない人々は逃げまどうしかなく、ナシェリオの両親は村人たちを守るため獣に立ちはだかった。

 二人には魔法の資質はなく、その腕だけでこの世を生き抜いてきた。

 全ての村人が家にこもれば獣の過ぎ去るを待つだけで事は足りた。

 されども、気が動転しあわてふためく人々の耳にそんな言葉は聞こえはしない。