「この暗がりでは無理です」

 月が出ているとはいえ満月というほどではない。

 下弦の月は薄い雲にも時折その弱い光を遮られていた。

 ガネカルは夜目が利く、人にはとてつもなく不利だ。

「見えるんだよ。私には」

 そうして、草むらから姿を現した獣に苦笑いを滲ませ互いに目視で相手を確認した。

「どうしたものかな」

 狂い唸る獣を前にナシェリオは思考を巡らせる。

 やはり、幾度となく目にした分厚い毛皮は見事なほどに全身を覆っている。

 ガネカルと対峙するのはこれが初めてではない。

 それでも、出来るならば遭いたくはない獣に違いはなかった。

 その凶暴性は再認識するまでもなく。

 そこには慈悲の欠片すら見あたらず、ただ引き裂き食い尽くす意識のみが存在していた。