「どうかお願いいたします」

「他をあたれ」

 深々と下げた頭(こうべ)に色のない言葉が浴びせられる。

 それでもニサファは懇々と説得を試みようと顔を上げた。

「それが出来れば無理など申しませぬ──ナシェリオ様!」

 遠ざかる英雄を呼び止めても振り返ることもない。

 これまでかと肩を落とし、ふらりと草原を歩き始めた。

 じきに夜の獣が徘徊する暗闇が訪れる。

 どうせ皆が助からないのなら、わたし一人が生きている事など出来はしない。

 きっと友は許してくれるだろう。

 強くなる風に逆らい、はためくローブを掴んで歩き続けた。

 そうして視界の端に何かの影を捉え、いよいよ最期かと覚悟を決める。

「村はこっちか」

 その声に驚き視線を送る先には、馬にまたがり並んで歩くナシェリオがこちらを見下ろしていた。