──ラーファンは未だ冷めやらぬ感情を家族の元に持ち込まぬため、ナシェリオの家で心を落ち着かせていた。

 そうでもしなければまた喧嘩になってしまう。

 暖炉の前に敷かれた毛皮に腰を落とし、陶器のカップを傾ける。

 採れたばかりの果物をすり潰した液体は甘く喉を潤した。

「なあ」

「ん」

 テーブルで小鳥を彫っているナシェリオは呼ばれて顔を上げる。

「やっぱり村を出よう」

 言われるかもしれないと予想していた言葉が紡がれ心臓がドクンと大きく脈打った。

「どうして──」

「彼の話を聞いただろう。ここにいてもあんな経験は出来ない」

「出たからといって良いことばかりとは限らないよ。すぐに死ぬ可能性だってあ──」

「そんなことを言っていたら何にも出来ないじゃないか!」

 ラーファンは声を荒げて立ち上がりカップを床に叩きつけた。