もう戻れない。戻りたい──変わり果てた己に、もはや涙すら枯れ果てた。

 腰に携えられた剣は青年の動きを彩るように小さな金属音を鳴らし、青年はそれに眉を寄せる。

 あのとき、彼を止めていれば天寿を全うできたかもしれない。

 けれど、後悔は決して先に立つことはないのだ。

 青年は記憶の中にある村の風景を草原に重ねた。


 †††


 ──そこは小さな村だった。

 ここら辺りはマナもさほど強くなく、そのせいか凶暴なモンスターもあまり彷徨(うろ)ついていない。

 おそらく昔からそうなのだろう、だからここに集落が出来た。

 マナの影響で実りはそこそこだが、村の大きさを思えば充分な収穫があった。

 高く切り立った山脈を臨む西の辺境を訪れる旅人などほとんどおらず、穏やかに毎日が過ぎていた。

「ナシェリオ!」

 まだ二十代に差し掛かったばかりの青年は艶のない硬い栗毛を短く揺らし、前方に見える親友に手を振った。