村が消滅したと知ったナシェリオは哀しくもあったが何もかもが思い出のみとなり、心を引きずるものが消え去って軽くなったのも事実だった。

 だからといって己の犯した罪が消える訳ではない。

 英雄ともてはやされる度に心はギシギシときしみをあげる。

 私はそんなものじゃない。

 どうして忘れてはくれない。


†††


 エスティエルはベッドに腰を落とし、苦しみに歪むナシェリオの寝顔を見下ろしてそっと前髪に触れる。

 柔らかな山吹色の髪はさらりと彼女の指をつたい、苦悩する表情にさえ人を惹きつける輝きをまとっていた。

「あなたは優しすぎる。全てを背負おうとしなくともよいでしょうに」

「それが私の償いなのだ」

 エスティエルのささやきにゆっくりと目を開き、どこを見るでもなくつぶやいた。