「もう、取り返しがつかない」

 馬の王はそう締めてうなだれるナシェリオをしばらく見つめ、ブルルと唸ったあと彼を見据えた。

[そうか、彼の者は彼岸に旅立ったか]

「知っているのか」

[古くからよく知っておる。いつかは旅立つと憂いておった]

 この世界をずっと見てきたドラゴンは己の寿命を素直に受け入れていた。

 ただ一つ、古からの力が失われる口惜しさを除いては。

[そなたの哀しみがいくばくか我には解らぬが、昼夜を問わずその苦しみに嘆かぬように我からささやかな贈り物を捧げよう]

「贈り物?」

 それにぎくりとしたナシェリオだが、馬の王は彼の頬に優しく顔をすり寄せた。

[途切れることのなき贈り物だ。我とそなたの友情の証と思ってもらえればよい。先にはそなたの望まぬ道筋が横たわる限りだが、そなたならばと信じている]

 そう述べ終わると一度高くいななき、たちまちに走り去った。

 そのときナシェリオにはそれがどういう意味なのかは解らなかったけれど、それは直ぐ訪れた。