見た目に伝わる存在感だけでその馬がどのようなものなのかが充分に理解出来た。

 それは、英雄の冒険譚に幾度となく顔を出し助言を与える者──空想の産物かと思われていた存在が今、まさに眼前に迫っている。

「馬の王に出会えるなんて」

 白毛の馬はゆっくりとナシェリオに歩み寄り、彼の前で立ち止まると深い海の色をした瞳を向け穏やかな視線を注ぐ。

[麗しき者よ。そなたは何故そんなにも哀しみを湛えた瞳をしているのか]

 心に直接語りかける優しい声に喉が詰まる。

 全ての馬の種の上に立つ長(おさ)にして常(とこ)しえなる馬族(うまぞく)の王ゼフォロウムの前にナシェリオは、一人ではとても抱えきれずに今までの成り行きを切々(せつせつ)と紡いだ。