「そろそろ落ち着いている頃合いでしょう」

「だといいがな」

 つぶやいて、ゆっくりと酒場に向かうニサファの後を追う。

 さほど大きくはない港町といえど酒場は町の中ほどに位置しており、のんびりした足取りでは速やかな到着という訳にはいかない。

「吟遊詩人どもはそれらしく英雄を謳うものですが、貴方はまさに彼らの奏でる美しい音色そのままに輝いておられる」

 気を紛らわせるためか互いの距離を少しでも埋めるためなのか、のんびりと歩いていたのはそのためかとナシェリオは顔をしかめる。

 どちらにしても彼にとっては面倒でしかない。

「私はそんなものじゃない」

 吐き捨てるように応えた青年を自分の息子か孫にでも重ねているのだろうか、ニサファは口元を緩めて笑う。