危険なのかそうでないかの境界線を知る事は難しい──それを知る者がいくら説明したとしても、詰まるところ経験しなければ理解する事は出来ない。

 しかし、死んでからでは遅すぎる。

 後悔すらも敵わない。

 この世界は容赦もなく慈悲もないけれど、揺るぎのない理(ことわり)がある。

 それだけは、決して忘れてはならないのだ。

「ナシェリオあれ」

 沈黙を続けていたラーファンがふいに口を開いた。

 彼が示す方向に目を向けたそこには、かつての記臆にある獣の姿があった。

 獅子に似た風貌はブラウンの体毛で覆われ、黒いたてがみは雄である証だ。

「プレオイシス──」

 それは北の民の言葉で「草原を走るもの」という。

 その獣は雄大な風景にとけ込むように堂々と草原に身体を横たえ、風を感じているようだった。