二人は集落を後にして野を進んでゆく。

 村の周辺となんら変わりない風景だが、北の民であった両親はかつてこの野を放浪し二人が見ていた景色をいま、私も見ているのだろうかとナシェリオは外の世界に触れている感慨にひたった。

 空は青く、まだらに浮遊する雲が大地に幾つもの影を作り出す。

 野を吹き抜ける風は覆い尽くすように広がる丈の短い草を波立たせ、見たこともない海を連想させた。

 父や母はどれたけの苦難に遭い、立ち向かって安住の地にたどり着いたのだろうか。

 ナシェリオはそれを考えて胸に小さな痛みを走らせた。

 幼き子を残し若くして彼岸に旅立った彼らは、果たして幸せだったのだろうか。

 愛されていたという私の記憶と、彼らの抱いていた感情は違っていたかもしれない。