「行く末に幸あらんことを──」

 その刹那、体は軽くなり目の前にいたはずの女の姿は痕跡すらも見あたらなくなっていた。

 幻覚だったのだろうかと額の汗を拭い、ふと左手の小指に見慣れない指輪がはめられている事に気がつく。

「これは……」

 女の瞳と同じ色をした宝石が静かにナシェリオを映し出していた。

 考えても仕方がないと気持ちを切り替えて宿を探し、宛がわれた部屋を見渡して溜息を吐きつつ疲れたようにベッドに腰を落とす。

 ニサファを思い起こし自分の人の良さにつくづくだと呆れて横たわった。

「そうでなければ、あなたはすでにこの世の驚異となっているでしょうね」

 突如、透き通るような声と共に眼前に現れた幻影に上半身を起こし顔をしかめる。

「先ほどの占い師か」

 それは徐々に実体化してゆき、窓から差し込む陽の光に影を作り出した。

 ナシェリオは小指にはめられている新たな指輪を一瞥し、女の顔を見上げた。