「それにどう反応すればいいと言うのか」

「なんだと?」

 男は感情のない声に顔をしかめてわざとらしくドカドカと足音を立て距離を詰めた。

 旅人の腕を試したいのだろうか、挑戦的な目を向ける。

 それにも旅人は動じることなく二杯目の水を注文し、ついに男はマントを掴んで拳を振り上げた。

 周囲がそれを確認した刹那、男が掴んでいたマントがふいに軽くなり背後に気配がしたかと思うと膝の裏を思い切り蹴られてがくんと崩れる。

「うっ!?」

 体勢を立て直そうと片膝を床についたとき、右頬にひやりと冷たいものが触れた。

 剣の切っ先がわずかな距離にあり、小さく引き気味に叫びを上げる。

「どこにでもいるな」

 呆れたようにつぶやいて剣を収め、マントを拾い上げると硬貨を二枚カウンターに置いてそのまま酒場から出て行った。

 あとに残されたのは、青白い光をまとった剣と艶美とも言える青年を見た者たちの溜息だった。