「嘘を言うなよ。回ってくる商人が好意でくれた高級木材の木っ端(こっぱ)なんかを嬉しそうに貰っていたじゃないか」

「そうだよ。私にはそれで充分なんだ」

 それ以上を望みはしない。

 ささやかな喜びがあればそれでいい。

 私は身の丈に合った幸福しか望まない。

「何を言っているんだ。お前は素晴らしい腕を持っているのに、こんな辺鄙(へんぴ)な村で終わらせるなよ」

 辺鄙な村……。

 彼にしてみればそうだろう。

 話に聞く王都は小さな村などいくつも入るほど広く、街を見下ろす城は巨大にそびえ立っているという。

 しかし、ナシェリオは生まれ育ったこの村に愛着が湧かない訳ではなかった。

 両親が命を賭して守り抜いた人々が生活しているこの村を離れたいと思った事はない。

 否、離れたいと思うだけの野心がナシェリオにはないのだ。