カウンターに手を乗せると、

「水を頼む」

 若い声と背格好に隣にいた髭を蓄えた男がいぶかしげに見下ろす。

 硬い鎧も身につけておらず、腰には細身の剣と短剣(ガダー)のみ。

 小柄だというのにアウトローにしても仲間はいそうにない。

 旅人は水の入った木製のカップをマスターから受け取り、それを傾けるときにちらりと見えた面持ちに男はさらに眉を寄せた。

「女か? いや、男か。随分と綺麗な顔じゃないか」

 ナシェリオは男を一瞥し、再び水を口に含む。

 男はそれが気に入らなかったのか、目を吊り上げて旅人に向き直った。

「おい、聞こえてるんだろう」

 太い腕を見せつけるようにこっちを向けと手で示す。

 ナシェリオはフードを被ったまま顔を少しだけ男に傾けた。