私は、――幹太が美鈴ちゃんとデートしても別に胸が痛まないのだから、
幹太と同じ言持ちで幹太を見てあげることは出来ないんだと確信している。
それを伝えたら、今までの28年間が壊れると思うと踏みとどまってしまうけど、
そもそももう既に昨日、壊れてしまったんだと思う。
幹太の口づけは、月の表面みたいに冷たくなかった。
吐息も、身体も唇も、悩ましげに吐く短い言葉も全て、私を狂わすように甘く熱く。
何もかも晴哉と違い過ぎて、向き合いたくなくて逃げてきた。
私は、今までもこれからもずっと、ずっと、――晴哉が好きなんだから。
どら焼きに押された桔梗の花の紋を見ながら、溜息が出る。
もし、春月堂の紋が桔梗じゃなかったら、もう少し違う未来が待っていたのか。
私も幹太も、ただの幼馴染で、それ以上踏み込んだ関係にならなかったのかな。
幹太の声を聞こえないふりしてきた私には分からない。
耳を塞いで聞きたくないって思ってしまった私には。



