あの日は、ナイフの様に鋭い月が鋭く刺さっているような月夜だった。
全くおめでとうと言ってくれない幹太にキレた私が、店から飛び出して泣きながら晴哉の元へ帰った夜。
幼馴染の幹太に祝福されなくて、しかも嫌われている気がして、
夜空の月が、私の心を抉っていく、寒い夜だった。
幹太は、婚約おめでとうと言う代わりに、私を壁に押し付けて、両手を壁に縫い付けた。
「離してよ」
両手を掴まれ、壁に縫い付けられたまま、何だか恥ずかしいし泣き顔を見られたくなくて俯く。
「――桔梗」
スルスルと、繊細に幹太の指が動く。ゆっくり、輪郭を描く様になぞるのは、――私の薬指に輝く指輪。
幹太は何度も何度も、優しい手つきで指輪の輪郭をなぞった。
「俺が、言えばお前は困る癖に」
「え?」
「俺は、――ずっと言わない。言えるわけないんだ」
悲痛な、痛々しい声。顔を、見たい。見ては、いけない。
――見上げても、淡い夜の輝きは、上手に幹太の表情を隠した。
「桔梗。オメデトウ」
優しい、――蕩けるように甘い優しい声だった。



