「それは酷いです。私だって同じことしちゃいますよ」
そう一緒に怒ってくれる美麗ちゃんは、そんな厳しい研修に耐えてくれた、控え目で可愛らしい、舞踊の本家のお嬢様。
今は結婚して子供までいるけれど、そんな風には見えない純粋で可愛らしい子だ。

「ぶん殴り足りなかったわ。今度私の前に現れたら、髪の毛が生えて来ないように頭皮を毟ってやる」

「ひぃぃぃ」

私と美麗ちゃんの会話を聞いていたのか、調理場の方から情けない声がした。
――大事な常連客の息子さんの高校生の、咲哉(さくや)くんだ。
此方も老舗の呉服屋で。振袖を購入したりご結婚で着物を新調したりしたりするお客様にお祝いのお菓子を送るときに、春月堂に注文してくれる古くからお付き合いがある人からのお願いだもんね。

大学進学をしたくないという咲哉くんの自分探し期間のお預かり。