美鈴ちゃんはにこやかに、けれどドス黒いオーラを放ちながら咲哉君に告げると、今度こそ店から出て行った。凛とした背中で、真っ直ぐに歩きながら。
「アレって?」
「なんかコンクール用に出すって言ってた上生菓子なんです」
咲哉君が勿体ぶった説明をしながらも、私の背中をぐいぐいと押して行く。
「わっ。咲哉君?」
「そっちの小さいほうの冷蔵庫開けて下さい」
業務用の、餡子や生地を寝かせている大きな冷蔵庫の隣にある、小さな幹太やおじさんが試作品を仕舞っている冷蔵庫だ。
ゆっくりと開けると、二つの生菓子がお盆の上に置かれていた。
「これ……」
一つは羊羹だった。紫色の夜空に閉じ込められた桔梗の花弁が浮かぶ羊羹。
私が好きな、紫色の空を見上げる桔梗を切り取ったような繊細で美しい作品。
もう一つは、桔梗の上生菓子。練り切り餡製で小豆濾し餡入りで、私の好きな暖簾と同じ桔梗の紋の形そのままだ。
「コンクールに桔梗さんを連れて行くなんて、幹太さんも本当に粋ですよね」



