嘘つきな背中に噛み痕をアゲル。

私は幹太の目を見て、静かに頷く。
背中を向けない幹太を、真っ直ぐ見つめる。


もう、私からは逸らさないよ。逸らさないから。

夕焼け色が段々と影を落としていく。
濃いオレンジ色が、段々と闇へ染まっていく。

朝を迎える為に、空が夜に染まってく。


「和菓子ってか、いつも忙しくて、毎日甘ったるい匂いがする家があんま好きじゃなかった。子供心に、甘い匂いがする家なんて恰好悪いって思ってたんだよ」
「そうなの? 家に帰る帰路で、甘い香りがするって素敵なことじゃない?」
「お前がそう言ってくれたから、そう思えたかな。いや、今もあんま甘すぎる和菓子は苦手だけど、でもお前との記憶が一番古いのって、あの桔梗も前で会話したことだ」

手持無沙汰からか、幹太はヘルメットを脇にしっかり挟み、視線を夕焼けの方へ移した。


「『私の桔梗って名前は、此処に咲く花から付けられたんだって』と、にこにこしながらお前が言ったんだ。『だから、和菓子屋さんの暖簾に描かれている桔梗も私の桔梗だよね。じゃあ、あの和菓子屋さんも私にとっては宝物だよ』って」