ダンデライオン

「術後の傷がふさぐまで一晩安静にしてください。

何かありましたらナースコールのボタンを押してください」

看護師はそう言うと、私の右手にナースコールのボタンを持たせた。

「では、失礼しました」

看護師は頭を下げると、病室を後にした。

「麻子、起きてるか?」

看護師が出て行くと、お父さんが私に話しかけてきた。

「うん、起きてる…」

そう言って出した声は、ひどくしゃがれていた。

ハスキーボイスのオリンピックみたいなのがあったら日本代表になれるかも知れないと、そんなどうでもいいことを思った。

「お父さん、今何時なの?」

この病室には時計は置いていなかった。

「今か?」

お父さんは腕時計に視線を向けると、
「ああ、6時になったところだ」
と、言った。