ダンデライオン

「従業員の人じゃないよ」

俺は徳井さんに言い返した。

「だけど、好きな人は言えない」

徳井さんは悔しそうな顔をすると、
「私は“専務の妹”よ」
と、言った。

脅しのつもりかと、俺は心の中で毒づいた。

「そう呼ばれるのは嫌だと、あなたは言いましたよね?」

そう言い返しても、徳井さんの悔しそうな顔は変わらなかった。

俺は彼女の悔しそうな顔を視線だけで一蹴すると、休憩室から立ち去った。


その翌日、いつものように出社した俺を待っていたのは辞令だった。

『宿泊部門フロント係担当 浅井忍

平成××年度9月から名古屋支社への転勤を命ずる』

掲示板に貼られていた辞令の紙の前に、俺は立っていた。