浅井さんは俺を一瞥した後、引き戸の方に向かった。

カラカラと浅井さんは引き戸を開けると、店の外に出て行った。

1人取り残された俺は、椅子から立ちあがることができなかった。

俺は、本当にどうすればいいのだろうか?

麻子から離れて、板前の夢を選ぶか。

板前の夢を捨てて、麻子を選ぶか。

俺は、どっちを選べばいい?

どっちを選べば、俺も麻子も幸せになれるのだろう?

「ああ、帰るのが遅くなるな…」

俺は椅子から腰をあげた。

あげた瞬間に足元がふらついたのは、長い時間座っていたからだと思いたかった。