――10年前

「陽斗!」
「…伊織、お前女なんだからお兄ちゃんぐらいで呼べよ。」
「陽斗はお兄ちゃんって感じじゃないもん。」
「あぁ、そうですか。」
2歳下の妹伊織は中学に入ったばかりだった。
俺は中学3年で部活と勉強に追われる毎日を過ごしていた。
自慢ではないが成績は悪くなく、志望校は地元で有名な進学校だった。
特に何でもない毎日を送っていた俺を襲ったのは妹、伊織の死だった。

「何で伊織がこんな目に会わなきゃ…!」
見る限り殺されたのは確実だった。
死因は首を何かで締められたことによる窒息死だった。
泣き叫ぶ母が1日経つとまるで普通に戻ったことが俺には恐怖に感じられた。

警察は犯人を探していたが初めだけだった。
そのうち、伊織は援助交際をしていた、身体の関係を持っていたなどの噂が立ち始め捜査も先に進まずいつの間にか忘れられていた。

俺も高校生になり大学生になった。
そこそこの大学に入り、世間からは大企業だと言われる会社に入った。
母は喜んで伊織に報告した。仏壇にではない。2階の伊織の部屋に、だ。
「伊織ー、陽斗ね○○に就職決まったんだってー!」
母は伊織もおめでとうだって、と俺に言いお祝いの料理を作らなきゃねと台所に立った。