「よぉ、亮人。美術室で昼飯 食おうぜ」



チャイムが鳴り、昼休みになると、一斉に廊下や教室は騒がしくなった。



亮人が弁当の包まれた風呂敷を手に教室を出ると、扉に彼の親友、流岡 祐輝(ナガオカ ユウキ)がもたれかかって立っていた。



黒いミディアムの髪に囲まれた瞼の奥には茶色い瞳が光を宿しており、笑顔がとても明るい。



亮人は微笑む祐輝を見るなり、苦笑して彼に歩み寄った。



祐輝は、むかし卯花高校一の問題児と言われていたほどの不良だった。



しかし去年、重い病を患い、手術後に回復するも前ほど暴れるのは危険で、真面目な生徒となって日常を過ごしている。



亮人は不良ではなかったが、中学校時代から彼と仲がよかった。



祐輝は微笑みを絶やさず、亮人が持つ弁当を羨ましげに見つめる。



「弁当か、いいな。俺なんか購買のパンだからたまにはくれよ」



「お前、いつも俺のおかずつまみ食いしてるじゃねーか。…悪いけど、今日は一人で食べるわ」



祐輝の誘いを断り、軽く笑うと祐輝は「そっか」と承諾して、踵を返す。



「どうせ、河下のこと考えるんだろ」



「えっ、はぁ!?」



祐輝とは反対方向の廊下に歩を進めかけた亮人は、彼の言葉に勢いよく振り向く。



その頃には、祐輝の姿は消えていた。



「…あの野郎」



顔を真っ赤に染め上げて、亮人はまた一つ、大息を吐いた。