知らぬうちに他のクラスの小百合を目で追っては、親友にからかわれる日々。



一目惚れ、といってもなんら違和感はなく、亮人はいつでも彼女のことを考えていた。



(あー…告白したい、けどなぁ…)



亮人は切なげに微笑して、悩みを含めた吐息を漏らし、シャープペンシルを回す手を止めて教室の一角を見る。



小百合に惚れ込んでいる亮人が、彼女に告白をしない理由。



それは、彼女に恋人がいるからだった。



亮人は、教室の隅でシャープペンシルをノート上に滑らせるクラスメイト、倉井 斗真(クライ トウマ)に目をやった。



決して二枚目ではないが、いつも優しくおおらかな笑顔を浮かべていて、勉強もそこそこできるような人物。



彼は、小百合と付き合っている張本人であり、亮人の恋敵だった。



亮人は切ない微笑を浮かべたまま彼から視線を外すと、またシャープペンシルを回し始める。



(…河下があいつのこと好きなんだから、仕方ねえよな)



亮人は空を見上ぐ。



空に、焦げ茶色で癖っ毛な、小百合の後ろ姿を見つけたような気がした。



亮人は、小百合が幸せなら、彼女を想っているだけでいいと、考えていた――。