「…付き合ってんのって、倉井だろ?」



「え…なんで、知ってるの?」



「倉井に聞いたよ」



亮人は真っ直ぐに小百合の焦げ茶の瞳を見据え、微笑みを、浮かべた。



「…河下、もし倉井と別れるんなら…」



小百合は、亮人を見つめる。



不思議な空気が、中庭にふわふわと漂っているような感覚がした。



亮人ははぁ、とため息をつき、言った。



「…別れたら、倉井が悲しむぜ。休憩時間に聞いたんだ。『彼女か部活か、どっちが大切か』って」



小百合が、息を飲む。



亮人は言葉を、繋げた。



「あいつも、お前と同じ。部活も大切だけど、河下のことも大好きだって言ってた」



小百合の白い頬に、みるみるうちに朱が差していくのを、亮人は黙って眺める。



小百合は頰を真っ赤に染め上げて、亮人から顔を背けるとぽつりと言葉を紡いだ。



「…もう少しで最後の試合だって、私、知ってた。でも、寂しかったから、当たっちゃったんだ。…こんな私なのにさ、彼は本当に好きなのかな?」



「大丈夫だって。倉井とは中学からの付き合いだから、嘘はつかねえ奴だってのは知ってる」



(あんまり仲は良くないけど、噂でよく聞く。誠実な奴だって)



心の中で呟き、亮人は深呼吸をすると、
大切に、息を吐くように言葉を綯うた。






「…ちゃんと『河下を泣かすな』って忠告しといてやったから、さ」






小百合は、ひまわりの花が開花するような明るい笑顔を、こぼした。



(…完敗、か)



亮人は切ない感情を胸に押しとどめて、立ち上がる小百合の気配を感じていた。