静閑な中庭。



花壇にはちらほらと色鮮やかな花が開き、中庭の端には梅が素朴に咲いている。



桜の蕾はまだ固いが、やがて春が来る、とでもいうように細い枝を天空へと伸ばしていた。



亮人は何かを言いたげに口を開けるが、小百合を横目に見て、また口を閉ざす。



それが三分ほど続いたとき、小百合が声を発した。



「…ね、松嶋。私、彼と別れようかな」



「…えっ?なんで」



亮人は驚きの声をあげ、まじまじと小百合を眺める。



小百合は落ち込んでいるらしく、一度 吐息をつくと亮人に目をやった。



「彼にとっては、私と部活なら、多分 部活の方が大事だと思うんだ。私がワガママ言って困らせる訳のは嫌だし、なら、別れた方が、良いかなって…」



彼女の性格の通り、いつものハキハキとした口調はそこにはなく、後半に行くにつれトーンが落ちていく。



言葉尻は殆ど聞き取れず、声が震えてい
た。



小百合は口をつぐむ。



亮人は何も口出さず腕を組むと、虚空を見た。



(…別れた方がいい…か)



小百合は、膝の上に乗せた手を握りしめ、唇を震わせる。



――亮人は考え込んだ後、「河下」と小百合の名を呼んだ。



(…俺って、最低な奴)



一度うつむき、顔をあげる。



亮人の表情には、もう迷いはなかった。