「…隠すようなことでもないし、良いよ。三組の、河下 小百合だよ」



「ふぅん」



亮人は無愛想に声を漏らし、さらに斗真に質問を投げかけた。



「…お前は河下のこと好きな訳?」



「うん…そりゃあ、付き合ってるし、まぁ、その…可愛いしさ。でも僕、ちょっと彼女と喧嘩してて。…ってか、なんで松嶋、いきなりそんな」



「あと一つ」



亮人は斗真の話を遮ると、人差し指を立てて顔を近づけ、問うた。



「お前さ…」



「え、え?…なに?」



「ぶっちゃけ、部活と彼女、どっちの方が大切?」



斗真はしばし呆然とした後、質問の趣旨がわからない、とでも言うように眉をひそめ、亮人を胡散臭げに見つめた。



亮人は引き下がらず、なおも食いつく。



「お前確か、バスケ部だっけ?バスケ部っつったらこの高校で一番厳しい部活じゃん。彼女との時間とか、ないだろうし…部活と彼女、どっちが大切だよ?」



「…どっちも、大切だよ。僕だって小百合は大…好きだけど、部活だって大事なんだ」



亮人のしつこさに根負けしたのか、斗真はため息をつくと、そう言った。



「…三年になったら部活をやめて受験勉強をしなくちゃいけない。今度の試合が最後だから、小百合との時間が無いんだ」



「…あっそう。…ありがと」



礼を言い、また腕を組んで亮人は自らの席に引き返そうとし、足を止めた。



「…もしまだ付き合うってんなら、河下を泣かすなよ?」



斗真は不思議そうに、そんな亮人を見て心なしか首を傾げていたが、やがて頷いた。



席に座り、亮人は中庭を見下ろす。



(…部活も河下も、か…)



贅沢な奴、という言葉を、亮人の唇が形作った。