翌日、仕事に向かう途中、ふと思い立ち、行きつけの本屋へ寄ることにした。

「悠…真…?」

 和仏辞書を手に取り、見定めていたとき、聞き覚えのあるあの声で僕の名が呼ばれた。

 振り返ると、やはりそこには、君がいた。

「やっぱり…悠真だ…」

 大きな瞳に涙を浮かべて、まっすぐに僕を見つめる君。

 薄茶色の瞳にいつになく高鳴る胸。

 ああ、やっぱり僕は、君が好きだ。

「なんでここにいるの?」

「会いたかった」

 噛み合わない言葉を交わして、君は僕に抱きついた。

 状況が、理解できない。

 どうして君が、僕に抱きついてるんだ?

「私のこと、嫌いになった?」

 まだ潤んだままの瞳で、これ以上無いくらいの完璧な上目遣いをする君。

「嫌いなわけないだろ、幼なじみなんだから」

「じゃあなんでメアドも電話番号も変えたん?なんでフランスにいるん?フランスで何してん?」

 初めて君から畳み掛けられ、僕はたじろいだ。

「話すから、とりあえず車乗ろう」

「うん」

 僕は手に持った辞書を棚に戻して、本屋から出た。