そんな俺に対してシェバは、睨み付けるように俺を敵視し始めた。
何もしてないぞ、俺は...。


「何時も何時も、貴様ばかり...こんな男の何処が良いのだ!!」

「キレんなよ!?」


シェバは左腕で紙袋をしっかり抱きかかえると、右腕を振り上げ拳を作った。風を切るような音と共に俺の顔面へ振り下ろされる。
無抵抗だと確実に意識が飛んでしまう其の拳は、普通の女のものではない。

俺は素早くベンチから転がるように受身を取った。
ベンチに目をやれば俺の座っていた場所が、半壊していた。
どんな人生送ってきたらベンチ半壊出来るんだよ。

また殴りかかってくるのかと、身構えていたがシェバは落ち着きを取り戻したようだった。
恐ろしい女だ、全く。


「失礼、取り乱しました。」

「其れより俺に謝れよ!?」

「貴方に頭を下げるくらいでしたら、私は自害を選びますね。」

「もう良いよ、どっか行っちまえ。」


俺は頭を抱えると、シェバを追い払うように手を振った。
末恐ろしい女だ。あれは男にモテないな。

シェバが去って俺はまた1人になった。さて、どうやって時間を潰そうか。
俺は広場を離れて、歩きながら思考を働かせた。
貧困街で出来る事など大して無いけどな。
溜息を吐いて視線を下にさげる。とっとと『血塗れた芸術家』を捕まえて、ディーブに殺らせれば好きな事が出来るのに...。

また溜息を吐いていると、誰かにぶつかってしまった。
ぶつかった相手を見てみると、猫背で罅の入った眼鏡をかけたおっさんだった。
これはまた気色悪いおっさんにぶつかったな。


「これは失礼。」


俺は気色悪いし話したくも無かったので、すぐに其の場から立ち去った。