【翌日】
朝からぼくは変わらず憂鬱だった。
理由なんて、たかが知れている。
今日からぼくは囮としてベティと一緒に行動するのだ。

ベティはギフトが昨日伝えた時間より5分程早く『Sicario』にやって来た。
服装は昨日と大して変わらず、強いて言うのならばほんの少し笑顔な気がするだけだ。

支度を終えると、ぼくはベティと共に家を出た。
ベティが住んでいる所はノーリスト街から近いノーファス通りという貧困街だった。

予想通りというか、何と言うか...ベティの家はとても小さく破損が大きい。
この環境でこの国で生きていけるのか...。

此処で一応言っておくが、ぼくは貧困街へ赴いたのは初めてだ。
更に言うならぼくは貴族街出身だ、今は訳あって『Sicario』にいるようなものだ。
別に苦と思っていないし、今の生活に満足しているから言う事はない。

ベティは仕事があると言って何処かへ行ってしまった。
ぼくは殺風景な家に1人佇んでいた。


「...囮って、何すればいいの...?」


取り敢えず視界に入った木製の椅子に座った。
何気なく辺りを見回す。窓から見える景色は荒んだ空と、廃墟のような建物だ。