その言葉はまるで、今、兄によって内側から施錠された玄関とは裏腹な行為。ちょっとした油断か招く惨劇など想像もしていないような。
言ってはいけない、こと。
「……」
兄から見えてしまう背中が大きく震えた。
お願いだから嫌悪して。視線を逸らせて離れていって。半分の心が叫んでいる。
「えっ……?」
意味が、上手く咀嚼出来ずにいた兄の態度は当然のことだ。それで終わっておけばいいじゃない。
……けれど、わたしはなんて、どうしようもないのだろうか。
口走ってしまった本当の願いは、容易には塞き止められず更に言葉を紡ぐ。首を可愛らしく傾げる兄の胸元に両手を添えて、玄関扉に押し付けた。
「わたしものになってよ」
「あ……や、ね……?」
「兄さんだけなの。兄さんにはあんなふうにならないの。兄さんがいいの。だから、わたしがいなくなってしまうと嫌なら、兄さんがわたしをもらってよ。ずっと一緒に、いてよ」
背中を玄関扉に押し付けられて動けない兄を見上げる。精一杯の恋の色と情欲をもって。
すると、兄もわたしの言わんとしていることを理解したようだった。わたしと似ていないそのささやかな二重瞼が忙しなく動く。伝わってくる心音が激しい。全部、全部わたしのものだ。誰かになんて渡さない。追い撃ちをかけるように寂しいなんてわたしに言うものだから。
だからもう、
「なっ、にを言ってるんだ。そんなこと……ちょっとさっきので動揺してるのか?」
嫌悪することなく今も拒まずにいてくれるなら、どうか。
「馬鹿な、ことを言ってるのはわかってる。普通じゃないなんてずっと思ってる。普通じゃない昔がこうさせたかって言われると、そのせいにはしたくないけど、もしかしたら一因ではあるのもしれない。っ、けどそれだけじゃないっ」
「……――、彩音は、普通の女の子だよ、昔も今も」
こんな状況になっても、わたしの想いの源が幼い日のあのことたちだと、幻覚だと言わない兄は危機感が欠如していて優しすぎる。素直に告げてくれる言葉が幸せで。
だからだと、ずっと秘めていた言葉は、するりと兄へと告げられた。



