もうそこは自宅門扉の前で、いつもはオレンジ色灯る暖かな我が家は今日だけ寂しそう。月の明りの下、眉を寄せたままの兄を包み込んであげたい衝動を抑え、玄関の鍵穴に鍵を差し込んだ。
いつもと変わらない音を立て玄関扉が外に向かって開き、解錠したわたしから家の中に入る。続いて兄が。
今夜は、わたしたちだけの我が家、ふたりきりだ。上がってすぐ右手にある二階への階段もその先も、左手に伸びるリビングへの廊下もその奥も、一切何の気配もなくて暗闇が果てなく続いているみたい。
嬉しい。けれど苦しい。いつも通りいつも通り。わたしはいつだってそうやってこれたのだから。けれど、最近の色々な出来事――兄への想いの膨張率、探偵への依頼と結果、今日、傷付けてしまった人のこと、助けてくれた兄への……――流石に、わたしだって元に戻るスピードはダウンしがちで。
「そっか……、ちょっと寂しいなぁ」
「っ!?」
スピードは、ダウンしがちで。
「彩音も、もうすぐにでも彼氏ができて。いや、今までいなかったのが不思議なくらいだけど、――もう、助けてもらってばかりではいられないな、僕は。いやいや、とっくにそうしてなければいけなかったのに」
なのに寂しいんだと、兄はわたしに未練を感じてくれた。
最近では二ヶ月前。原因は、またあったりなかったりするような訳のわからない状況で。眠れぬ兄の手を握って、夜を過ごした。いい大人になって情けないと顔を背ける兄が寝転ぶベッドの傍ら、わたしは繋がっていないほうの手で兄の額に触れた。
眠れぬ夜には予感があって、もうずいぶん前から、兄はそれを隠そうとする。
どうして気付くのだと拗ねる兄に、わたしはいつも、なぜでしょうと微笑む。
そんなやりとりを嫌がりもせず、惜しんでくれた兄。
大好き。誰よりも大切で愛している兄。
兄にそんなことを言われてしまい、スピードのダウンしていたわたしは、
「――じゃあ、兄さんがなってよ」
あらぬ願いを口にしてしまった。



