甘やかな螺旋のゆりかご



自宅までの道中、わりと早い段階でわたしの肌の惨状に驚かれてしまった。いつもは頼りないかぎりの仄かな街灯さえも今は憎い。月も、今日にかぎって存在感のある。隠しておける状況ではなかったから仕方のないことだけれど。


「薬を、少し前に飲んでいたから大丈夫」


「症状が出る前ってことか? それは、やっちゃいけない」


兄がわたしのために買ってきてくれたケーキを、箱がこれ以上潰れないように大切に抱え込む。まだ深夜ではないのに人通りのない住宅街の道路に、兄とわたしだけの足音が響くのが幸せだ。わたしの細いヒールの音と、兄の革靴が時折砂利を踏む音が、そこらに溢れる普通の男女みたいで、一瞬だけ夢に浸る。


「うん。もうしない。今日は、確実に出ちゃうだろうなって思ったから。ごめんなさい」


「っ、……」


隣の歩調が僅かに狼狽え、どうしたのかと首を傾けてみれば、存在感ある月と明かりのせいで、兄の歩調と同様の表情が見てとれた。


「兄さん?」


なんでもないことみたいに言ってしまえばもう終わると思っていたそれに、兄は敏感に反応してしまった。こんなときだけ勘がいいなんて、本当ずるい。


ふるりと肌が粟立つ。空気が冷えるのはまだあとの季節だから、原因はもちろんその声で。わたしの大好きな声を歪めてしまったことに内心激しく動揺した。


「あの男……が? ……えっ、でも今までだってよく……っ、全部さっきの奴のせいなのか? ……っ、あいつっ」


兄でさえも、わたしの蕁麻疹の原因は知らなかった。心配をかけるのは嫌だったし、ただの自意識過剰なのかもしれないのだし。けれど、同じようなことでこうも同じ症状が現れるのだから、多分そうなんだろう。


引き返して追いかけて絶対に見つけ出して制裁のひとつでも。そうしてしまいそうな勢いの兄を引き留め、ここにいてと、そのスーツの袖をつまんだ。


家までもうすぐの、住宅街の小さな交差点。風がわたしたちを通り抜けていった。