「お前っ何やってんだ!!」
助けてとは、言わなかった。その顔を見た途端に決心は揺らぎ口走ってしまいそうになったけれど。
わたしを囲い込んでいた彼は、わざと見せつけるように、その身体と腕をゆっくりと離していった。視線は、こちらから逸らすことはなく。
わたしは、本当に狡くて最低な人間だから、直ぐ様状況の軌道修正を謀ってしまう。
助けにきてくれたヒーローに向かって…………兄さん、などと、決して呼ばずに関係をぼやかした。
そうして彼を見上げる。その、周囲の皆から綺麗だと言われている顔は、傷付いた表情をしていて。そんなの、最後にしないでほしい。今までのポーカーフェイスはなんだったのだ。ただ自分に靡かない故の執着なんかじゃないと瞳で語らないで――、ううん。もっとぶつけてほしかった。そうしたら、ここまであなたを振り回したりはしなかったかもしれない。
ごめんなさい。謝って、このことを、忘れないようにすることしかわたしには出来ないの。
「――好きな人が、います。本当にごめんなさい」
無意識に向きかけた好きな人への視線を捩じ伏せ謝罪をすると、彼はベンチに追い詰めてしまった謝罪を一言告げて、公園の出入り口へと長い足をもつれさせることなく帰っていった。
「……」
「……」
「……兄さん」
「……ああ」
「帰ろっか」
「……そうだね」
兄の足下には、約束のホールケーキが入っているであろう大きな箱が転がっていた。それに今気付いたという兄の落胆ぶりに、とても申し訳なく思う。
「ごめんなさい。ケーキ……」
「実は、電車の中でもみくちゃにされて、既に崩れてしまってたから、カモフラージュ?」
嘘っぱちな気遣いを甘んじて受け入れると、ベンチから動かなかったわたしの頭をさらりとひと撫でしてから、兄は落ちたケーキの箱の砂を払った。



