あらかた泣き止んでも動き出せなかったわたしを、探偵はそのまま一晩事務所に置いてくれた。わたしに、もう触れることも触れさせてくれることもなく。薬を飲んで安定したわたしに勝手にしろと言い放ち。それでもずっと、同じ空間にいてくれた。
無断外泊の弊害は、父と義母に一度ずつ頬をぶたれたこと。数日後に海外出張に出なければいけない父は、それは必死に、一晩中あてもなく駅前を歩いたり、方々に電話を掛けてわたしを捜してくれたらしい。小さな妹がわたしの膝の上で泣き疲れて眠ってしまい足が痺れたことは、もっと痛いくらいでもよかったくらいだ。兄が、いつもよりずっと優しかったこと。甘すぎる仕打ちは、今は余計に辛かった。
――……
無断外泊の日から数日、気持ちはざわついたり無気力だったり波は激しかった。大学には、体調がすぐれないからと嘘をつき、家族に心配をかけてしまう。
兄と顔を合わせるのはやっぱり幸せで。けれど、やっぱり今は辛かった。まだわたしを気遣って絶賛甘々キャンペーンを開催している兄は、今日はわたしの為だけにケーキを、丸いままのを買ってきてくれるらしい。取引先の近くに美味しい店があるのだと言っていた。
わたしだけの為。父は海外出張、義母と妹は、義母の実家に泊まり掛けで帰っている。
「……」
自室の床の上に寝転んでいると、ふいに携帯電話が振動した。フローリングを媒体にして、寝転ぶわたしの耳にも音が伝わってくる。
時刻は十六時。着信相手の名前を確認する。……まあ、今の時間帯なら非常識ではないか。昨日の夜から定期的に掛かってくる電話の相手は同一人物で、深夜早朝だろうと構わず鳴らしてきた迷惑なやつ。
……まあ、迷惑な行為をさせてしまうような状況を作り出してしまったのは、わたしなのかもしれないけれど。最近は無視ばかりしていたから。
向こうは付き合っていると思ってるかもしれない。けれど決定的に始まった記憶もお互いの確認もない、同級生の彼からだった。



