うちひしがれるわたしの肩に、探偵は慰めるように手を置く。やめて触らないで、また痒くて苦しくなる。そういう意味ではない探偵からの接触さえも、わたしにはやっぱり無理だった。
兄だけだ。わたしは兄を愛している。もし依存や錯覚だとしたらなんだ。わたしはそれを、本物にする力がもうある。それが望みで。
近くで見上げた探偵は、実はそんなに年齢を重てはいないと気付く。髭や髪型を整えれば、おそらく三十代の――
――兄にほんの少しだけ雰囲気の似た探偵を、今の今までわたしが深く沈んでいたソファーに押し倒した。
鞄から取り出した新たな依頼料を探偵に見せつけ、馬乗りになった。蕁麻疹はとっくに出ていて痒くて、息苦しさはいつもより酷い気がする。でも決めていた。こうしてみようと。みみず腫になっているかもしれない汚ない肌の侘び代として、お金は多めに持ってきたつもりだ。
「抱いてください」
探偵に依頼する。これも含めて、浅はかにこの事務所を選んだのだ。せめて、兄に抱かれていると錯覚したくて。
わたしは、捨てることも出来ない想いを、これから多分一生抱えていく。一縷の望みは案の定消えた。最近では、兄を想って心どころか身体も疼く。こんなわたしは消えてしまえばいい。でも、兄が悲しむ。
だから、兄には触られてはいけないと自分を戒められるくらいには汚れないといけない。プライベートで利用した、兄を冷静に想う為の道具のような男では駄目だ。お金で片が付きそうな、これっきりにしてくれるような相手。頼めば、もう一生身体なんか使いたくないと思わせてくれるようなやり方をしてくれる男。
誤算は、わたしが組伏せている探偵が、思いの外優秀で優しかったこと。それでもいいとしたのは、やはり兄にほんの少しだけ雰囲気が似ているから、わたしがこの人と定めてしまったこと。
探偵は言った。わたしの下で。その頬は少しだけ染まっていた。わたしはその頬に涙を何度も落とした。
「幸せになりなさい」――探偵は、わたしの頭を撫でながらそう言った。



