銀閣寺参道、少し坂になっていて300mほどの参道が
門前まで続く。民家と商店が点在してて土塀や石垣が
ところどころに続く。道幅は6mくらいだ。

道の両脇が溝になっていてこの溝に入り込んで道路辺端
に90cmX180cmの黒別珍布を敷くとちょうどよい
路上店舗になる。常連は革細工のアラジン。

手作りアクセサリーの流民舎。立命の帽子屋。テキヤの和尚。
時々修の後輩の蓮井がギターを弾きに来たりしていた。

他の観光地では高台寺の親分。三年坂の夫婦。新京極の将軍
等、各地にそれなりの名物ヒッピーがいた。

銀閣寺では早朝テキヤの和尚、本物ではないがスキンヘッド
でいつも血色がいい、この和尚と修が場所を決めるのだ。
だんだんと場所取り時間が早くなりすぎてきりがないから

和尚と修とで午前6時と取り決めた。大前さん所の石垣の
下に布を敷く。昼忙しい最中に厚子が来た。いっしょに

溝の中に入り込んでバスケットを持ってしゃがみ込んだ。
昨日の晩に電話があったのだ。

「よう」
「お久しぶり。こんなか入ってもかまへん?」
「ああ、かまへんよ。今晩嫁さん帰って来るよ、
夜になったら会えるけど」

「ううん、もうええのん。夜には東京行くし」
「あそう、だれかに会いに?」
「そんなんちゃう。そろそろ私も遠くへ旅に出ようと思うて、
どこか行かへんかったらみんなの話についていけへんもん」

なるほどそうかもしれないが、近寄りがたい一重まぶたの
この京美人が、無邪気に溝にしゃがみ込んでお客を見ながら

呼び込んでいる。ベージュのベレー帽に茶色のセーター、
ジーパンがよく似合う。

「どうですか?ネームバッチ、パパパと作りますよ」
とか言っている。厚子はバスケットを開けて、

「サンドイッチ食べはる?」
「ほんと?ありがとう。いただくよ。こうやって食べるのかな、すごくでかい」
「こぼれるやん。こうやってすこしづつ食べよし」
「うまい。久しぶりだなこんなの」
「なにいうてんの。君子さんは作らはらへんの?」
「うーん、ここんとこいまひとつなんだよな」
「それ、どういう意味?」
「うん、ちょっとな言いにくいけど離婚するかもしれない」

お客が付いて話はいったん途切れた。忙しくなってきた。
1円の針金を丸めて300円で売る。1日100個は作る。
夜は又別である。これで生活は十分やっていけてた。

「始めて妊娠した時。皆が、2階のおばあちゃんも、これは
男の子だと言うので名前まで決めてまちに待っていたんだ。
それが女の子だったからって今でもそういうことを言う。

俺は智子がとても可愛いし、そんな事ちっとも思っては
いないんだが、返って智子に悪いと思っているくらいだ」