夕方日暮れ近くになって鈴木と涌井が戻ってきた。
ふたりでまだずっとしゃべり続けている。雰囲気
が変だ。病的で異常だ。周りを全く無視して二人

だけの空間がブラックホールのように異様なバリアをはって、
他を寄せ付けない。濃い灰色のバリアの中でふたりは
ぼそぼそと周りのエネルギーと生命力を吸い込んでいく。

「おい、君たち!」
大きな声で修は叫んだ。はっと我に返ってやっとふたりは
現実に、今の状況が認識できたみたいだ。

「どうしたんだ、ふたりとも!」
修はさらに大声で叫んだ。不気味な邪悪なものをその背後に
感じたからだ。まさに不吉な予感がした。

「竹内は?」
「は?竹内とは大文字山の頂上付近で別れました。ちょっと
一人で考えさせといてくれということだったので」

「ばかやろー。ずっとその調子でぶつぶつと思いつめて
しゃべりながら3人で登って行ったのか?」

「はあ、そうです。竹内は黙々としていました。やっぱり
父親には逆らえそうもありません」

「そんなんわかっとる。今すぐ結論出さんでもええやないか。
あいつ死によるぞ。今からすぐ引き返してなんとしてでも探せ」

「そんなばかな?」
「何言うてる。異様やったぞ、お前ら戻ってきた時」

修はもう外に駆け出していた。鈴木が続く、涌井がさっきより
さらに青い顔をして後を追ってきた。御影通りから白川通りを
下って銀閣寺へ抜ける。山門の前を左折してすぐ右折、

大文字山の登山道に入る。細い山道だ。大文字山も結構
入り込むと山深い。猪が出るくらいだから迷うと深くて
危険な山なのだ。沼や池、沢や谷もある。

もうあたりは暗くなりかけていた。山頂のかがり火台付近に
着いた。鈴木が説明する。

「ここらで涌井と話し込んでいたら、ちょっと一人で考え
させといてくれと後ろ向きに、ここら辺に腰掛けていたか
と思ったら、いつのまにか姿が見えんようになりました。

10分ほど竹内と呼びながら探したんですけど、一人で先に
下山したかと思うて、僕らも下へ降りました」

「たけうち!たけうち!」
と叫んではみたが、もうあたりはかなり薄暗くて危険だ。

「すぐ下山して竹内の下宿へ行ってみよう」
「はい!」

3人は大急ぎで大文字山を下りた。不安が半分、多分下宿に
返ってるだろう。灯が灯り始め京の夜景も心なしかすごく寒い。
もう12月だ、夜は相当冷え込むぞ。まさか山中に迷っている

とは思いたくないが、どうしても不安がよぎる。足早がさらに
早くなって、百万遍の竹内の下宿に着いた。3人とも息が切れ
ている。やはり竹内はまだ帰っていなかった。

下宿の入り口で3人はたたずんだ。大きく深呼吸する。
「しばらく待とう」
3人はうずくまって30分待った。

「何か食べてるかもしれません」
鈴木が言う。

「それやったらそれでええ。9時まで待って帰って
こなかったら、法華経研究会の先輩に相談しよう。
民青の方にも知らせといたほうがいいかも知れんな」