「亜貴君、本当はこんな事をしたくはないのですがね」
すっと天を指す右手。
「私を、私達を許してはくれないでしょうね」
「?!」
今の今まで、嗚咽を漏らす事しかしていなかった筈の矢木さんの最愛の人、辻先生が徐に俺の体を押さえつけてくる。
突然の出来事、そのあまりに強い力に軽くパニック状態に陥ってしまって。まともな状況判断がつかなくなった。
「…は、離せ!離せよ!」
じたばたと暴れたって、どうしようもないのに。大人と子供の体格の差は、そう簡単には覆せない。それでも、みっともなく抵抗する事しか出来なかった。
きっと、もう。
この時点で俺は負けていたんだ。
「連れて行きなさい」
低く、冷たい声が下す最終通告。
「――ッ!」
ズルズルと引き摺られながら、双眸に映った校長の顔。そう、真正面からハッキリと。はじめて見た、嘘偽りのない“素顔”
『亜貴君、こんにちは』
『亜貴君は元気ですね』
『亜貴君と――――』
そんな、嘘、だろ?
だって、あんたは、――貴方は、
侵入者、苑田亜貴
校長室にて拘束のち、消息不明



