断罪校則

「なに、言って…」
「やはり覚えていませんか。当然と言えば当然ですが、哀しいものですね」

校長はくるりと方向を変え、窓際までゆっくりと歩いて行く。俺は、その姿をただ目で追うことしか出来なかった。

「ほら、見て下さい」

紳士的な所作でカーテンを纏め上げ、薄暗い部屋に月明かりを招き込む校長。

こんな時になにやってんだと眉間に皺が寄るのに、視線を切れない。

真ん丸で大きな、輪郭の攫めない月。窓枠を額縁に見立てると、本当に、綺麗な…




「今夜は、月が綺麗ですね?」
『亜貴君、月が綺麗ですね?』

重なり合う遠い日の記憶。

でも、思い出せない。肝心な所が思い出せない。緊迫した場面には不釣り合いな、優しく儚い月明かり。その月明かりに照らされる校長の顔を見ても、

「……だれ、だ?誰なんだよ!」

ワカラナイ、

必死で思い出そうとすればする程、記憶の糸が絡まって混乱する。こいつは俺の事を知っている?じゃあ、俺もこいつの事を?


ワカラナイ、

ワカラナイ、


「て、テメーなんか知らねえよ!」

やっとで搾り出した声は、聞き取る事も困難なぐらいに引っくり返った、そう。子供の威嚇のような他愛のないもの。

気を緩めれば涙が溢れて来そうで、俺は下唇を噛締めながら校長の顔を睨みつける。


校長は、そんな俺を見て薄く笑っていた。